「企業倫理・コンプライアンス」と「法燈明」
ある企業の社員から相談を受けました。
「消費者から製品に関して不具合の苦情が多数きているのに、上司は経営陣に伝えず内々で処理しようとしています。世間に公表すれば全品回収など、社の業績悪化につながるので行ないません。許せませんが、密告してクビになりたくはありません。上司に黙って従うべきか、どうしたらよいでしょうか」
これを聞いた時、ある食品メーカーの不祥事を思い出しました。それは、その会社の食品で消費者が食中毒を起こして苦情があったのに、社員は食中毒の原因は他にあるとして上層部に報告しませんでした。その後、マスコミからの追及で後手に回り、企業のブランドイメージが大きく失墜したのです。
相談した社員に、私はこう答えました。「上司の誤った判断を見過ごすことは会社にとってよくない、と考えたあなたの見識と勇気を賞賛します。本件は早く公表して対処し、消費者の信頼を取り戻すべきでしょう。上司が動かないなら、あなたはその上の信頼できる上司か役員に情報源の秘密を約束させて正直に話すことです。その際、分かる範囲内で苦情内容の事実を集め、建設的な対応策も話してください。会社のためを思って報告したあなたを、会社側が解雇することは法律に抵触するのでしないはずです」と。
営業の収益チャンスと企業倫理・コンプライアンスとが互いに相反する時には、後者を必ず優先させると考えるべきです。コンプライアンスとは法令遵守だけではなく、法令の精神も汲んだ社会倫理や道徳、企業の就業規則などを守ることです。近年、営業の活動や競争での公正性・透明性、契約の文書化・記録化、利害関係者への情報公開や説明責任、人権尊重、情報管理強化など高い倫理観が求められています。下請け企業を価格や条件などでいじめるようなことは優越的地位の濫用になります。上司が倫理に反した業務指示をしても追随せず、自分で正しく判断し行動できる社員となるべきです。会社としてもそうした人を不利益にせず、評価されることを他の社員にも見える組織や企業風土にしていくことが大事です。収益至上主義、極端な成果主義、度を超えたコスト削減圧力は、社員の不正や歪みを生みがちです。