ブックレビュー

【書評】私は、看取り士。わがままな最期を支えます 著:柴田久美子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

死を意識した時がある。大きな恐怖が襲ってきた。死など考えたこともない日常ではなかなか実感できないことであるが、自分自身の余命を知った人は、どれだけ動揺するだろうか……。

死期が近づいている人に寄り添うのが、看取り士である。仕事はそれだけではない。家族の不安にも向き合う。息を引き取るまでの経過、時時刻刻移り変わる心の変化、死を迎える準備などを手伝うのも看取り士の役割だからである。

本書には、柴田久美子さんが看取った人々の事例が綴られている。柴田さんは、25年間で200人以上を看取ってきた。多くの人を看取る中で、柴田さんが気付いたことがある。それは、人間は死んだら「愛」になるということだ。亡くなりゆく人の身体からは、エネルギーが放出されるという。看取りを繰り返してきた柴田さんには、空間を満たすそのエネルギーが、故人が何かを包み込むような「愛」そのものに感じられるという。その「愛」は、エネルギーとして空間を満たすだけでなく、故人の行動となって現れることもある。

例えば、家族が病床に駆けつけるのを待っているかのように息を引き取る人がいる。まるで自分の死ぬ時間をコントロールし、死ぬ瞬間を自分で選んでいるかのようにである。そうさせるのは、家族への愛である、と柴田さんには感じられる。家族の幸せを願い、前を向いて生きていけるようにとの祈りが込められた故人からのメッセージである。
面会に来た家族が帰った後、一人静かに亡くなる人もいる。最後の面会が楽しいものであったとの思い出になるようにである。まさに今、いのちが終わらんとする時に見せる、見逃してしまうようなささやかな気遣い、振る舞いに、柴田さんは人のいのちの痛いほどの切なさを感じる。

さまざまな事情で、最期の瞬間に立ち会えない人もいる。後悔で自分を責めている人が多い。そうした人に、故人の思いや愛を柴田さんは伝えている。それも看取り士の仕事だからである。

数々の事例や看取る側の心構え、作法なども盛り込まれた本である。看取る人にも、看取られる人にも読んでもらいたい。

〈書籍情報〉
私は、看取り士。
著者:柴田久美子
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2018年9月30発行
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る