暮らしの中から見えてくる風景や心象を表現し続ける、エッセイストの広瀬裕子さん。
2017年冬に、鎌倉から香川へ移住。
現在、設計事務所のディレクションに携わり、場づくり、まちづくりにも関わっています。
住む場所を変えて、見えてきたもの、感じた思いを綴ります。
photo by Yuko Hirose
生き方や暮らし方は、毎年、毎月、毎日、変化しています。日々はつづいていくものなので、変化を感じにくいときもありますが、ずっと同じということはありません。形や、目に見えたり、手にとれるものだけではなく、感じ方、受けとり方、考え方という、ひとの基本的な方向性も変わりつづけますし、わたしたちを取りまく世界のルールのようなものも同じように変わりつづけます。世界の変化は、いいわるい、すききらいなど、個人の感覚とは別に「変わるときは変わる」というもので、そのなかでわたしたちは生きています。
世界の変化にはタイムラグがあります。変化の波を受けとるのが今日のひともいれば、10年後のひともいます。距離や時間、個人の柔軟性や環境により、波の速度や大きさは変わるのでしょう。そのタイムラグは、いまにはじまったことではなく、以前からありました。ただ、最近は、情報が速くなった分、波を見ようとするひとが多く、受けとる気持ちがあれば手にしやすくなったのだと思います。「変わるときは変わる」という流れがあったとしても、早く手にしたいひととそうでないひと、どう受けとるか、受け止めるかは、ある程度、個人で選択できるのです。
そんなふうに世界を見はじめると、世界に意志があるように感じてきます。意志は、ひとが集合体としてつくりだしているのか、また別のものが波を起こしているのかはわかりませんが、よりかろやかに、速く、遠く、ミニマムに向っているように見えます。「こうでないといけない」といった枠も、さらにやわらかく、個人を尊重するような流れになってきています。
歳を重ね成長するとともに、移動距離が短時間で長くなり、把握できる範囲が広がり、多くのひとと出会い、価値観やルールが変わるように、世界そのものもその過程を辿っているように思えます。
こんなふうに生きていい──。ときどき、そう思わせてくれるひとがいます。年齢や性別という枠にしばられず生きているひと。役割という範囲をふわりと超え佇んでいるひと。うつくしいという価値観で日々を営んでいるひと。そういった生き方や立ち方にふれると、ぱっと世界が明るくなり、ひとの可能性を感じます。自分の内にある何かが動きはじめます。
それは、世界で言うところの変化の波のようなもので、世界で起きることは、ひと同士でも起き、その波を受けとろうと思えばいつでも受けとれるのです。
1月、2月。世界の主なルールでは、年が新しくなります。今年は、どんな変化が、どのようにやってくるのでしょう。その波に乗るか、見送るか。だれと出会い、どんなことばを交わし、深めるのか。2019年がはじまりました。
(月1回連載)
東京都生まれ。エッセイスト/設計事務所ディレクター/縁側の編集室共宰。「衣食住」を中心に、こころとからだ、日々の時間を大切に思い、表現している。
2017年冬、香川県へ移住。おもな著書に『50歳からはじまるあたらしい暮らし』『整える、こと』(PHP研究所)、『手にするものしないもの 残すもの残さないもの』(オレンジページ)など多数。