多様でも、向かう道は同じ
ダイバーシティーは、意思決定のプロセスにおいて異質な人の考えも含め、多様な選択肢の中から議論を尽くし、より良い決定に導くことに意義があります。
しかし、このプロセスは時間がかかり、意見の対立を大局観に立ってまとめるリーダーの統率力や求心力が必要です。
また、多様性を尊重することは説明責任をはじめ、リーダーシップや寛容力など大きな労力も求められます。
私が米国支店に勤務していたとき、アメリカ人は日本人のような「あ・うん」の呼吸で仕事をやってくれないので、全体の意義説明から細目の指示まで具体的に行ないました。
目標は「お客さまに満足してもらい、会社の業績を上げる」という一つの共通したものなので、それを踏まえた上で、部下一人ひとりのもち味を活かしたかたちで作業方法などを指示しました。
一体感をもって仕事に励んだ結果、業績表彰という成果につながったのです。
仏教の『法華経』には、「三乗を開いて、一乗を顕わす」という「開三顕一(かいさんけんいつ)」の教えがあります。
ここには悟りを求めるいろいろな人を日常生活の迷いや苦しみから抜け出させるために、学習主義の教え「声聞乗(しょうもんじょう)」、体験主義の教え「縁覚乗(えんがくじょう)」、大衆を救うことによって自分も救われるという行動主義の教え「菩薩乗」の三つの異なる教えを説いていますが、結局、すべては一仏乗という仏の道に通じているのです。
それぞれの価値や生き方を尊重すると同時に、いずれも皆、究極の目標である一つの幸せへの道につながっていて、本質は同じであると説いたのです。
現代こそ私たち一人ひとりが企業や組織の「多様性の尊重」と、それらを束ねたその先にある「価値観の一体感や求心力」をどう高めていくか主体的な行動が求められています。