目からウロコの仕事力

無欲と大欲、逆に見えて通ずるもの ―「大欲知足」

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ビジネスの世界に必要なものは「大欲」

資本主義は優れた経済制度ですが、万能ではありません。

経営者はいまの財務内容に鑑み、返済能力を考えた上で借金をして、将来への投資をします。社会の発展のために貢献するという理念をもちつつ、社員やその家族たちを養い、納税義務も果たし、売り上げや利益を安定計上しようとしています。一方、厳しい競争にさらされているので、常に創意工夫をしなければ社会や消費者から淘汰されてしまいます。

ですから、ビジネスの世界では、「少欲知足」という言葉を中途半端に使うと誤解を招きます。たとえば、「売り上げや利益などにあまり欲を出さず、無理せず、ほどほどに出せれば十分であり、足りている」と考える人がいます。しかし、それでは真のサービス提供にならず、縮小均衡に陥ります。

「大欲は無欲に通ずる」という言葉があります。これは、「社会の発展のために貢献できるものを作りたい」「困っている人々を救えるような薬や医療を開発したい」「世の中の人々がより幸せになれるサービスを届けたい」「より便利に暮らせる商品やサービスを提供したい」といった大きな欲は個人の欲を超え、私利私欲ではなく無欲の境地に通じるというものです。

世界や日本の発展に貢献したいという大欲をもちつつ、利益至上主義や拡大路線といった貪欲や強欲に根ざした我欲を張らず、足ることを知る節制心や倫理観のあるバランスの取れた「大欲知足」をめざしたいものです。

その意味で、私たちは低成長やゼロ成長でも適応し満足できる生き方が求められています。

低成長は国民を不幸にするわけでもなく、またGDP(国内総生産)の上昇が幸せにするとも限りません。私たちは環境にやさしい社会づくりをめざすとともに、高齢者が元気に働き、失業者が少なく、物価が安定した社会で、世の中のために働き、互いに助け合う心豊かな共存共栄の社会の構築をめざすべきです。

そのためには、東洋的な哲学や仏教的な智慧を学び、貪欲に陥ることなく、「足るを知る」という心の豊かさを自覚する。そして、地域の豊かさや多様性のよさを認識するなかで、お互いに切磋琢磨していきたいものです。

中央学術研究所客員研究員
佐藤武男(さとう たけお)
1954年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、三菱銀行に入行。香港や米国などの海外勤務を経て、三菱東京UFJ銀行外為事務部長を務める。また、貿易電子化諮問委員会の日本代表を6年間務めた。中央学術研究所客員研究員。現在はグローブシップ株式会社常務取締役管理本部長。
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