今週から、“元ホームレス社長”として知られる中小企業再生支援コンサルタントであり、塾オーナーの岸田昌幸さんの連載が始まります。
経営者として成功していた岸田さんは多額の持ち逃げに遭い、会社は倒産。
伴侶に逃げられ、ホームレス生活を送り、自殺一歩手前まで追い詰められたといいます。
しかし、どん底から立ち直るきっかけになったのは、人との“ご縁”でした。
現在は悩める中小企業の経営者の支援に生きがいを見出す岸田さんが、
実体験をもとに「運とご縁の引き寄せ方」を語っていきます。
経営者からホームレスへ
“塵も積もれば山となる”という諺があります。小さいことの積み重ねが最良の結果を残す場合もあれば、時として最悪の結果となる場合もあります。どちらにしても結果には、やはり原因があるのです。一夜にして成功することもどん底に陥ることも決してありません。私の場合、いろいろな積み重ねが最悪の結果を招いたのです。
会社経営をしていて羽振りのよい生活を送っていた私ですが、莫大な金額の持ち逃げ詐欺に遭い、気が付くと全財産は50円。家族から縁を切られ、帰る場所はなくなり、私は行き場もなく街を彷徨っていました。
今まで、当たり前にあった会社も家族も家もお金もありません。疲労困憊して、ただ足を引きずっている時、夢をみているのか、意識があるのかさえよくわからない状態でした。瞼を閉じると、闇の中に吸い込まれる恐怖感。
2005年4月のことでした。辿り着いたのは、大阪の天王寺公園。考えてもみなかったホームレス生活のスタートです。自身がホームレスになるとは……。それは、約半年間続きました。今、思いおこしても胸が苦しくなります。
公園のベンチで抜け殻のように座っていた時、一人のホームレスのおじさんに声をかけられました。
「兄ちゃん、どうしたんや。なんも食べてへんのやろ」。
おじさんは60歳前後でしょうか。熟れすぎて真っ黒になったバナナを私に差し出しました。
「……」。
「なんでも食べといたほうがええで」
おじさんはバナナを私に無理やり手渡して行ってしまいました。
「あ、ありがとうございます」。
ふり絞るような声で礼を言うと、バナナにかぶりつきました。3日ぶりに口にする食べ物でした。バナナの香りと甘さが、人間不信に陥り真っ暗になっていた私の心を解きほぐしてくれるように思えました。
(次週に続く)
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