会社経営者だった岸田さんは
多額の持ち逃げに遭い、会社は倒産。
伴侶にも逃げられ、ホームレス生活を送り、
自殺一歩手前まで追い詰められたといいます。
現在は悩める経営者の支援と社会貢献に生きがいを見出す岸田さんが、
ホームレス生活から立ち直るまでと
「運とご縁の引き寄せ方」を赤裸々に語っていきます――。
大きな落とし穴
公私共に絶好調だった私ですが、そんな生活は長くは続きませんでした。私が23年かけて築いてきた会社で、信用していた社員Aによる莫大な金額の持ち逃げ詐欺が発覚したのです。
新事業を始めるにあたり、Aに全てを任せていたのですが、準備していた資金をすべて持ち逃げされてしまったのです。その額、約5億円。もちろん、銀行から借り入れた資金や信用貸しで私が保証人になった資金も入っています。持ち逃げ詐欺にあったとわかった時は、もう体中から血の気が引いていくのを感じました。
事件が発覚する前のことです。打ち合わせに行く新幹線の車中で、一本の電話が入りました。声の主はクライアントの社長でした。「岸田さん、最近、Aさんの動きが変だ。私も個人的にお金を貸しているのだけど、毎晩、大阪の高級クラブで散財しているようだ」と。「まさか」と思い、翌日Aに電話をしてみましたがまったく繋がりません。急いでAの家に行くと、もぬけの殻でした。
Aは私の知り合いからも多額の借金をしていたことが後日判明。Aの実家にも行きましたが、お父さんは脳梗塞で入院中、お母さんは認知症で話になりません。Aの奥さんの実家にも行きましたが、「ここには来ていない」とのこと。まさか自分が騙されるとは考えてもいませんでしたから、もう目の前が真っ暗でした。
それからというもの、私は金融機関への返済ができません。債権者からの督促状や内容証明が届き、簡易裁判所からの呼び出しがあり・・・。頭の中はパニック状態で、自分の身の上に何が起こっているのかさえ分からなくなりました。社員からは「私達はどうなるのですか?」と詰め寄られる毎日。私自身、経営者として失格だと自己不信に陥りました。
また、私はAの保証人にもなっていましたから、裁判所から毎日のように連絡がきます。簡易裁判所で約15回の調停。弁護士にお願いするお金などありません。一人で裁判所に出向き、何度も何度も調停委員と話をしました。私の訴えを理解してくれた調停委員はついに債権者にこう言ってくれたのです。「岸田さんは加害者であるけれど被害者でもあります。債権者の方々は、どうか債権放棄という形をとってもらえませんか」。この言葉は本当に嬉しく、救われました。
私はAをなんとか捕まえようと警察に何度も相談に行きましたが、最後に言われた言葉はこうでした。「捕まえることはできても相手が自己破産するだろうからお金は返ってこないと思ってください」。これにはもう言葉も出ませんでした。もういくら頑張ってもお金は返ってこないのだ、裁判所に行っても何をしても無駄なのだ、という絶望感にうちひしがれました。
しかし、よくよく考えてみれば、私が甘かったのです。Aの人間性を見抜けず、仕事を任せたのは、他ならぬ自分だったのですから……。
(次週に続く)
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