よいことをするためには、
ためらってはならない。
善をなすのに躊躇していたら、
心は悪を楽しむことになる。
「ダンマパダ」(116)
心は弱いものです。「わたしはけっして悪いことをしない」などと、過信しないほうがよいのです。ちょっとした隙があれば、心は悪い方向へ行ってしまうものです。
心はいつも簡単なこと、楽なことから先にしようとします。心は放っておくと危険です。たとえば子どもがなにか悪いことをやらかすと、思わずカッとなって怒ることがあります。怒るのは簡単でやりやすいからなのです。諄々とさとすことは面倒なのです。怒りの感情で子どもを叱っても、子どもには効き目がありません。それは叱った本人も気がつくので、あとから後悔することになります。
また人は、「だれも見ていないから」「バレないから」「一回だけだから」という気持ちで、悪いことをしてしまうものです。平気で悪いことをする人びとは、勇気があるように見えるかもしれません。
しかし、それはただたんに気が弱く、心が楽な方向に流されただけのこと。その衝動に打ち勝てなかったわけです。
心は悪い方向に行くほうが楽なのですから、よいことを実行するためには、かなり強い決意が必要です。意志が弱い人は、よいことが実行できません。よいことをする人こそが、真の「勇者」なのです。
戦場において百万人に打ち勝つよりも、ただ一つの自己に克つ者こそ、
最上の勝利者である。
「ダンマパダ」(103)
己にうち克って、つねに落ち着いている人の勝利を破ることは、
神もガーンダルヴァも、悪魔も、梵天もできない。
「ダンマパダ」(104, 105)
気が弱くて怖がりな人は武器をもとうとします。自信のない人は強がります。不満のある人は派手に自己主張をします。抑圧された人は懸命に権力や地位を手に入れようとします。
ほんとうに強い人、自信のある人、能力のある人は、そんな愚かなことはしません。もちろん他人のせいにしたり、他人の非をとがめて攻撃するようなこともしません。自分自身に満ち足りていますから、いつも落ち着いていられるのです。
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「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。
アルボムッレ・スマナサーラ
バックナンバー「 原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話」