介護は60点でよい
これは私の患者さんの実例ですが、家庭の事情で孫夫婦がアルツハイマーの祖母の介護をすることになったのですが、結局、それが原因で離婚をしてしまったケースもありました。
もう少し早く出会って、私が診察に入っていれば、孫夫婦が離婚する前に対策が講じられたかもしれません。一人で問題を抱え込んで悶々としてしまいタバコやお酒でまぎらわせ、仕事も手につかなくなるという悪循環に陥る典型でした。経済的に余裕があろうがなかろうが、そういう破綻は意外とすぐ訪れるということです。
ですから、家族の認知症介護に取り組む場合は、一人で抱え込むのではなく、家庭の状況をできるだけ早く地域の包括支援センターやデイケアサービスなどの行政窓口に行くとか、ご近所へ相談してみることです。
誰にも理解されずに、2年、3年と介護をしている人が、逆に病気になってしまうケースが多いのです。
もちろん、いろいろあたってみても、なかなか一長一短で、介護をしている男性にとってどうすればいちばん良い状況になるのかということは、ある程度試行錯誤をくり返してみなければわからないかもしれません。しかし、その失敗を恐れず、とにかく孤立しないで相談に乗ってもらうことです。相談できるパイプは二つ以上もっておくことが肝心です。
焦らず、いらつかず、ときには上手に肩の力を抜いてください。むしろ、介護は60点でよいと考え、いかに失敗から学ぶか。仕事発想の考えから脱却するか。それが大切です。
たかせクリニック理事長
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
1956年、兵庫県生まれ。信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。著書に『これで安心 はじめての認知症介護』など。