お父さんのための介護教室

認知症に誤解される「せん妄」について

医師 髙瀬 義昌
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原因と予防

「せん妄」になるのは、さまざまな原因があります。

たとえば、高齢化に伴ってかかる病気の治療薬が引き起こす場合です。鎮静薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬のほか、一般的な感冒薬、認知症の治療薬などが誘因になるのです。無熱性の肺炎・尿路感染症が引き金になることもあります。また病院への入院や介護施設への入所など、短期的にでも住み慣れた家から環境を変える場合でも起こるケースがあります。

しかし、私の患者さんで「せん妄」を引き起こす最も多い原因が、熱中症の原因にもなっている「脱水」です。炎天下でスポーツをしている人が熱中症で意識がもうろうとなる状態も、「せん妄」の一種です。夏場だけでなく、冬場でも暖房の効きすぎた屋内に長時間いると脱水症状を起こし、それが「せん妄」の引き金になっていることがあるのです。適切な水分を取ることが大切でしょう。

ただ注意しなければいけないのは水分だけを取ってもいけないということです。水分だけを摂取すると、逆に低ナトリウム性の脱水となって、体の活動に必要なイオン濃度が薄まってしまいます。そうなると、かえって「せん妄」が悪化し、けいれんを起こし、重症になると歩けなくなったり、死に至るケースもあります。

ですから、水分だけでなく適度な塩分補給が欠かせないのです。鍛冶屋さんが暑い仕事場で、水だけでなく藻塩をなめながら仕事をするというのは、熱中症にならないための経験から得た昔からの知恵なのでしょう。

そこで私は、「せん妄」予防として、患者さんには、経口補水液をお薦めしています。これは、WHO(世界保健機構)が提唱する経口補水療法に基づいて開発された飲料水で、一般のスポーツドリンクよりもイオンとブドウ糖の濃度が適切に調整されています。

高齢者が脱水によって「せん妄」にかかる理由の一つには、筋肉の衰えがあります。なぜかというと、筋肉が正常な運動のために必要な水分とイオンの貯蔵庫だからです。なので筋肉が衰えないように、いまのうちから、適度なスポーツにいそしんで、しっかり筋肉をつけておくように心がけておきましょう。

高齢者は、歩く量も若いときの2分の1から3分の1に減ってしまいます。50代からでも遅くはありませんので、ウォーキングなど、定期的な運動を日常生活の習慣として行なうことは、「せん妄」の予防になります。

髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
たかせクリニック理事長
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
1956年、兵庫県生まれ。信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。著書に『これで安心 はじめての認知症介護』など。
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