その男は、殺人を犯すところまで孤立していたのでしょう。かれが怒りでこりかたまっているとき、なぜ周囲の人がかれの気持ちを理解してあげられなかったのでしょうか。なぜ未然に殺人をやめさせることはできなかったのでしょうか。
結果として、それができなかったということは、わたしたちの社会も、同じように罪があるといえるのではないでしょうか。
ましてや未成年が罪を犯したのなら、大人の社会にも責任があります。少年は、犯罪者であって、同時に被害者でもあります。なんとか助けてあげなくてはいけないのです。
キリスト教の「聖書」にも、こんな話があります。
律法学者たちが、イエスの前にある女を連れてやってきました。それは姦通の現場で捕らえた女でした。
かれらはイエスに「姦通した女は石で打ち殺せと、律法(神との契約によって、神から下された命令)にある。あなたはどう思うか」と詰め寄ります。
イエスは、こう言いました。「あなたたちのなかで罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」。
すると、一人また一人と立ち去って、その場に残った者はイエスと罪を犯した女だけになりました。そして、イエスは言います。「わたしはあなたを罰しない。帰りなさい。もう、罪を犯してはならない」と。
「あの人が悪い」「上司が悪い」「社会が悪い」「政府が悪い」と批判ばかりする人は、「自分だけは悪くない」と思っている人です。自分のことをかえりみずに、他人を責める生き方をしているのです。しかし、よく自分自身を観察してみれば、自分もまた批判する者と同じようなレベルなのです。
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「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。
アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税 Kindle版(kindle unlimited) 0円
発行日:2003年10月
バックナンバー「 原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話」