間違いを指摘したり、相手を攻撃しても、相手の性格が直ることはけっしてありません。お互いに争いの泥沼におちいるだけです。相手のどうでもいいことや、不完全なことをさがしだして争うのではなく、「どこか仲良くできることはないか。どこか共通点はないか」と必死でさがしたほうがいいのです。
仏教には「戦え、頑張れ」という教えはありません。「今ここで戦うよりも、もっとすぐれた道はないか」という「超越した道」を教えます。戦いの泥沼に足を入れずに、戦いを「乗り越える」のです。お釈迦さまは、「聖者は、勝ちも負けも乗り越えて平安に住む」と説かれました。だれかに勝つ必要もないし、だれかに負ける必要もないのです。
だからといって「競争をするな」ということではありません。勝ち負けを争うのではなく、「自分の能力を発揮する」ことに努めるのです。運動会の競走でいえば、勝ち負けを競うのではなく、それぞれが悔いなく自分の力をだしきるのです。自分の能力を発揮することが大事なのです。一等になった人は、勝ったのではありません。それは、自分の能力を発揮したのです。最下位の人も負けたのではありません。自分の能力を発揮したのです。
勝ち負けを争うのではなく、自分の能力を発揮する。そのことによって、自分に適した道が開かれていくのです。
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「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。
アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税 Kindle版(kindle unlimited) 0円
発行日:2003年10月
バックナンバー「 原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話」