原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話

心を具体的にとらえるには

アルボムッレ・スマナサーラ
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画像・AdobeStock

日常の生活のなかで、心をつかむ(観る)訓練の仕方を一つご紹介します。食事は、とてもよい実践の機会になります。一日に一回でも、ゆっくりと時間をかけて食べることです。そして、食事をするプロセス一つ一つの動作を、丁寧に確認するのです。「座ります、食べます、見ます、箸を取ります、運びます、口に入れます、噛みます、味わいます、飲み込みます」と。そして、食べるときには、食べ物の感触をよく味わうのです。

よく食べすぎる人がいますが、ストレスがたまってイライラするから、それを解消しようとして無意識に食べてしまうのです。ゆっくり時間をかけて食べると、体に必要なものが入っただけで満足感が得られるようになります。やせすぎの人も太りすぎの人も、ちょうどよい状態になっていきます。こうして体自体が必要としているものがわかってくると、不必要なものは自然に食べたくなくなります。ですから「わたしは菜食主義で肉は絶対に食べない」などと思う必要はありません。主義に固執しているとそれがストレスになって、頑固で落ち着きがなくなってしまうからです。頭では菜食でいこうと思っていても、心は肉や魚を欲しているので、無意識にストレスがたまってしまうのです。

この食事の瞑想をしてみると、今まで発見できなかった味がわかってきます。ご飯だけでも、噛むたびに味が変わっていきます。高級グルメをさがし求めなくても、ニンジンをそのまま食べてみれば、びっくりするほど美味しく感じられるでしょう。野菜そのものの味がして、とても美味しいのです。野菜の青臭さとか、苦みとか、素材そのものの本来の味を味わってみてください。ゆっくりと丁寧に食事をしていると、最初はいらだちがでてくるかもしれません。しかし、それでも実践してみるのです。それができるようになれば、人生のいらだちまでもが解消されてゆきます。このような日常の些細なことから落ち着きを体得していけば、いつでも人生を落ち着いたものとすることができるのです。

 

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「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。

アルボムッレ・スマナサーラ

*アルボムッレ・スマナサーラ長老(**Ven. Alubomulle Sumanasara Thero**)*
テーラワーダ仏教(上座仏教)長老。1945年4月スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。1980年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で仏教伝道と瞑想指導に従事する。他にNHK教育テレビ「心の時代」出演、朝日カルチャーセンター講師などを務める。『ブッダの幸福論』『無常の見方』『怒らないこと』(和文)『Freedom from Anger』(英文)など著書多数。
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税 Kindle版(kindle unlimited) 0円
発行日:2003年10月
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