原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話

自我をだしたとたん心の成長は止まる

アルボムッレ・スマナサーラ
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出家の世界では、「自分のもの」ということは一切認められません。自分の椅子さえもってはいけません。それは出家者みんなのものであって、自分の所有物ではないのです。それは、出家社会は自我のない世界の生きたモデルだからです。

わたしたち上座仏教の社会では多くの儀礼がありますが、そのなかには僧侶たちだけで行なうものがあります。それは一人ひとりが、僧侶たちの集まるところで、「わたしは、こういう間違いを犯しました」「わたしに間違いがあったら、どうか教えてください」と宣言する儀式です。それは自我中心に生きることを制御するための行為なのです。

「わたしはすばらしい」と思っていると、人間というものは、どんどんと傲慢になってしまいます。自我をだしたとたん、心の成長が止まるのです。それを恐れて出家のあいだでは、このような儀式を行なうのです。たとえばわたしなど、こうして袈裟を着て人前で説法などをしますと、さも立派な坊さんのように勘違いされることもありますが、日常生活の至るところで、自我がでてきます。

電車が混んでいれば、「もうちょっと奥へ詰めてくれれば楽に立てるのに」と思ったり、地下鉄の出口を間違えたら、「わたしはなんてバカなんだろう。出口の名前を覚えておけばよかった。それにしても地下鉄の会社は、どうして看板にちゃんと書いておかないんだ」などと思うわけです。人間というものは、そんな程度なのです。「わたしは、ろくでもない。大したことはない。よく間違いをする」ということを、よく知っておくことが大切なのです。

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「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。

アルボムッレ・スマナサーラ

*アルボムッレ・スマナサーラ長老(**Ven. Alubomulle Sumanasara Thero**)*
テーラワーダ仏教(上座仏教)長老。1945年4月スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。1980年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で仏教伝道と瞑想指導に従事する。他にNHK教育テレビ「心の時代」出演、朝日カルチャーセンター講師などを務める。『ブッダの幸福論』『無常の見方』『怒らないこと』(和文)『Freedom from Anger』(英文)など著書多数。
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税 Kindle版(kindle unlimited)
発行日:2003年10月
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