出家の世界では、「自分のもの」ということは一切認められません。自分の椅子さえもってはいけません。それは出家者みんなのものであって、自分の所有物ではないのです。それは、出家社会は自我のない世界の生きたモデルだからです。
わたしたち上座仏教の社会では多くの儀礼がありますが、そのなかには僧侶たちだけで行なうものがあります。それは一人ひとりが、僧侶たちの集まるところで、「わたしは、こういう間違いを犯しました」「わたしに間違いがあったら、どうか教えてください」と宣言する儀式です。それは自我中心に生きることを制御するための行為なのです。
「わたしはすばらしい」と思っていると、人間というものは、どんどんと傲慢になってしまいます。自我をだしたとたん、心の成長が止まるのです。それを恐れて出家のあいだでは、このような儀式を行なうのです。たとえばわたしなど、こうして袈裟を着て人前で説法などをしますと、さも立派な坊さんのように勘違いされることもありますが、日常生活の至るところで、自我がでてきます。
電車が混んでいれば、「もうちょっと奥へ詰めてくれれば楽に立てるのに」と思ったり、地下鉄の出口を間違えたら、「わたしはなんてバカなんだろう。出口の名前を覚えておけばよかった。それにしても地下鉄の会社は、どうして看板にちゃんと書いておかないんだ」などと思うわけです。人間というものは、そんな程度なのです。「わたしは、ろくでもない。大したことはない。よく間違いをする」ということを、よく知っておくことが大切なのです。
* * *
「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。
アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税 Kindle版(kindle unlimited)
発行日:2003年10月
バックナンバー「 原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話」