原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話

不安の消えた状態が悟り

アルボムッレ・スマナサーラ
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ところが「なんとなく覚える不安」というのは、原因がはっきりしないのでなかなか消えません。それどころか、不安が不安を呼び、不安だけが勝手に膨張していくのです。

人生をマラソンにたとえるならば、まさに目隠しをしたままで突っ走っているようなものです。とにかく走らなければいけない。けれども目隠ししているから、ゴールがどこにあるのかも、どこまで走ったのかもわからない、という状態です。だから、納得がいかずに不安なのです。

それでもわたしたちはなにかに急き立てられているかのように、いつまでも走りつづけてしまいます。これが、じつは生命というものの本質なのです。

生命というものは、いつもなにかをさがしています。いつもどこかへ向かって走っているのです。なにもしないでいると苦しいのです。不安でたまらないので、とにかくなにかをしようと動いています。そして、それはわたしたちの人生も同じです。苦しみから逃れるために、なんの役にも立たないことを、いろいろとやっているにすぎないのです。この不安の消えた状態が「悟り」なのです。そういう境地に至った人は、不思議な落ち着きに満たされています。

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「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。

アルボムッレ・スマナサーラ

*アルボムッレ・スマナサーラ長老(**Ven. Alubomulle Sumanasara Thero**)*
テーラワーダ仏教(上座仏教)長老。1945年4月スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。1980年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で仏教伝道と瞑想指導に従事する。他にNHK教育テレビ「心の時代」出演、朝日カルチャーセンター講師などを務める。『ブッダの幸福論』『無常の見方』『怒らないこと』(和文)『Freedom from Anger』(英文)など著書多数。
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税 Kindle版(kindle unlimited)
発行日:2003年10月
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