わたしたちは、人のことを、どうのこうのと言えるほど立派ではありません。よく「今どきの若者はどうしようもない」などと言いますが、振り返ってみれば、自分たちも、そのように言われてきたのです。
「あの人は間違っている」と指摘してみても、もし自分がその立場になったら、同じことをしないという保証はありません。「嘘をつくな」と言ってみても、追い詰められたら嘘をついてしまうのが人間です。「頼りにならない」と言ってみても、自分が同じ立場になったら、信頼される振舞いができるでしょうか。不祥事を起こした政治家や官僚を批判しますが、わたしたちだって、賄賂をもらったり容易に水増し請求ができる立場になれば、「バレなければいいや」と悪事を犯してしまうかもしれないのです。
お釈迦さまの教えは、「他人の過失を見るのではなく、自分を観なさい」ということです。他人の過失を見ていては、永久に問題解決には至りません。人のことは放っておいて、自分の責任だけをきちんと果たしていけば、うまくいくのです。親は親としての役割をきちんと果たせば、子どもはきちんとするのです。人の過失を見つけて説教する人は嫌われます。人に説教するのは大きなお世話なのです。説教ばかりする人は、「早く帰ってくれ」といやがられます。
では、説教してはいけないのでしょうか。それは、自分でまずやってみてから言えばよいのです。自分が味わったもの、自分が行なったものを、他人に伝える場合には、すばらしい人間関係ができあがります。しかし、たいていは反対のことをしてしまうのではないでしょうか。
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「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。
アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税 Kindle版(kindle unlimited)
発行日:2003年10月
バックナンバー「 原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話」