原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話

智慧があるとは心になにもないこと

アルボムッレ・スマナサーラ長老
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賢者は、順次に少しずつ、
そのつど、みずからが汚れを除く。
鍛冶職人が銀の汚れを除くように。

                   「ダンマパダ」(239)

人間には、立派になりたい、清らかな心になりたいという気持ちがあります。どんな宗教でも、理想的な人格の完成をめざします。でも、たいていはうまくいきません。ある者は、心を清らかにしようとして、極端な原理主義的な方向に走ります。また、ある者は「そんなことはできっこない」と尻込みをします。ともに、心を清らかにすることを知らないのです。

お釈迦さまは「順次に少しずつ、そのつど、そのつど、磨くのだ」と言われました。悟ろうとか、人を救おうとか、大胆なことを考えるのではなく、少しずつ、そのつど、そのつど、努力するのです。

ものごとには順序次第があります。最初の一歩を踏みだしていけば、やがて完成に至ります。そして、その際には、「そのつど」というのが大切なポイントです。

だれかに出会い、なにかに触れて、怒りや悲しみがあらわれます。なにかの縁に触れて、人を殺すなどということもないとは言いきれません。つまり、そんな瞬間まで感情が高ぶるのを放っておいたら、もう、リセットなんてできないのです。

よいことをするにしても、悪いことをするにしても、それを「する瞬間」というものがあるのです。怒るときも、嫉妬するときにも、その瞬間があります。だから、大切なことはそのつど、その瞬間に気づくことなのです。怒りが起こりそうになったら、その瞬間に気づくのです。怒りが爆発しそうな瞬間に気づいて、その瞬間に釘を打っておくのです。そうすると、悪というものは繁殖しないのです。けっして、人殺しや大きな悪事は起こさないのです。

おもしろいことに、瞬間の感情というものはとても簡単に完了できるのです。気づいた瞬間に、完了してしまうのです。しかし、怒りの感情が入り込んだ瞬間、それに気づかず放っておくと、ウイルスのように瞬時に増殖してしまいます。爆発するまで増殖するのでどうにもなりません。

だから、そのつど、その瞬間に気をつければいいのです。それをつづけていくと、やがて心は清らかになっているのです。

鍛冶職人が汚れを落とすように、少しずつやればいいのです。それはどんな人でも、だれにでもできることなのです。

*  *  *

「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。

アルボムッレ・スマナサーラ

*アルボムッレ・スマナサーラ長老(**Ven. Alubomulle Sumanasara Thero**)*
テーラワーダ仏教(上座仏教)長老。1945年4月スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。1980年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で仏教伝道と瞑想指導に従事する。他にNHK教育テレビ「心の時代」出演、朝日カルチャーセンター講師などを務める。『ブッダの幸福論』『無常の見方』『怒らないこと』(和文)『Freedom from Anger』(英文)など著書多数。
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税
発行日:2003年10月
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一悟
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税
発行日:2005年11月
原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2009年6月
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